世界の自然と文化~南アメリカ編~
世界の自然と文化。第3弾は南アメリカ(南米)について見ていきましょう。日本から見ると地球の反対側、つまり最も遠く位置するこの大陸ですが、日本との関わりは思いのほか強く、各国の知名度も決して低くはありません。
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なぜ「アメリカ」?
言うまでもないことですが、南アメリカ大陸にアメリカ合衆国はありません。ではなぜ「アメリカ」の名がついているかというと、元々「アメリカ」とは、コロンブスによってヨーロッパに知れ渡ったこの「新大陸」全体を指す地名だったからです。
しかしさすがに範囲が広過ぎるために、後にパナマ地峡(パナマ運河のある、一番細くなっている場所)あたりを境に、北アメリカ、南アメリカと分けて扱われるようになりました。
また、「アングロアメリカ」「ラテンアメリカ」という分け方もありますが、この場合南アメリカは「ラテンアメリカ」の一部として扱われます。これはスペインやポルトガルの植民地だった歴史が背景にあり、同じくスペイン領だったメキシコやグアテマラなどもラテンアメリカの一員です(いわゆる中南米)。
南アメリカのスゴイ自然
さて、ここからは南アメリカに焦点を絞って見ていきます。まず南アメリカの自然について。名前の通り、この大陸の大部分は南半球にあり、南北に長い印象を受けます。実際、赤道付近はアマゾン川やその流域(セルヴァ地帯と呼ばれるジャングル)に見られる典型的な熱帯気候の地域が広がっています。一方、チリ、アルゼンチンの南端は南極に近く、氷河が見られる寒冷地となっています。
大陸の西側には南北に長い山脈が走っています。アンデス山脈です。その最高峰であるアコンカグアは高さ6千mを超えるなど、世界的にもヒマラヤに次ぐレベルの大山脈地帯となっています。そのためアンデスの西と東では大きく自然が異なっており、山脈を境に東はジャングル、西は砂漠地帯、という場所も珍しくありません。
このアンデス山脈は太平洋プレートと大陸のプレートが押し合いになって出来たと考えられており、今もこうした地殻変動は続いています。太平洋沿岸のコロンビア、エクアドル、ペルー、チリなどは地震の多発地帯となっています。日本と同じですね。
南アメリカ大陸の東側は、上にも書きましたが熱帯のジャングルが大きな存在感を示しています。雨が多いために大きな川も多く、中でもブラジル北部を流れるアマゾン川、パラグアイを経由してアルゼンチンへと流れるラプラタ川は、この大陸を代表する大河です。
なお、この大陸東側は地形的に歴史が古く、活発な地殻変動はあまり起こりません。アマゾンの南側は、ブラジル高原とよばれる緩やかな楯状地が広がっており、コーヒーの世界的産地となっています。
北部のギアナ高地では、山頂の平べったいテーブルマウンテンが見られます。この一つから流れ落ちる滝、エンジェルフォール(ベネズエラ)は、落差がありすぎて滝つぼの存在しない、常識外れな滝となっています。
この他、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイの国境付近に存在するイグアスの滝や、ボリビア南西部に位置するウユニ塩湖など、印象的な自然が多いのも南アメリカの特徴です。
南アメリカの国々
続いて南アメリカの国について。実のところ、この大陸には独立国がわずか12しかありません。そのため、アジアやオセアニアとは違い、「南米諸国」と、ひとくくりにされることが少なくありません。ここではこの慣例に逆らって、あえて分類してみます。
独立国12カ国を、旧宗主国(植民地支配していた国)で分けてみると、下の図のようになります。すなわち旧スペイン領がペルーやアルゼンチンなど9カ国、旧ポルトガル領がブラジルの1ヵ国。その他2カ国となります。
このうち、今「その他」に分類したガイアナ(旧イギリス領)、スリナム(旧オランダ領)と、現在もフランスの領土となっているフランス領ギアナは、通称ギアナ3国と呼ばれ、それ以外の南米諸国と一線を画しています。いずれもアマゾン川流域のジャングルと地続きになっており、森林面積の割合が極めて高い、緑豊かな国です。逆に言えば、大きな都市は無く、人口も控えめな国々です。
旧スペイン領の9カ国は、いずれも19世紀に独立しましたが、その後一時的に合体したり、逆に分裂したり、或いは国境線が引き直されたりして、現在に至ります。どの国もスペイン語を公用語としていますが、中には先住民の言葉を同等の扱いにしている国もあり、その様子は様々です。
コロンビア、ベネズエラ、エクアドルは元々まとめて「コロンビア」でしたが、1830年に分裂しました。
・コロンビアはコーヒーの産地として有名ですが、実はエメラルドの産出も世界一となっています。国名はコロンブスに由来しますが、彼がこの地を踏んだことはありませんでした…
・ベネズエラは沿岸部で採れる石油が多くの富をもたらしていました。しかし、政府が福祉政策にお金を使い過ぎ、財政破綻に。現在は国を崩壊寸前にまで追い込んでしまっています。
・エクアドルは、スペイン語で「赤道」の意味を意味し、その名の通り赤道直下にあります。カカオやバナナなど熱帯作物が盛んに作られていますが、首都のキトは高原地帯にあり、気温は比較的穏やかだそうです。また沖合のガラパゴス諸島もエクアドル領です。
ペルーとボリビアも、独立後数年だけ一つの国になった歴史を持ち、共通点も少なくありません。国内をアンデス山脈が貫く両国には、多くの古代文明の遺跡があり、訪れる人を魅了しています。
・特にペルーはインカ帝国の中心地で、有名なマチュピチュがあります。地上絵で有名なナスカ文明もペルー南部にありますが、こちらはインカより更に古い歴史を持っており、未だ多くの謎に包まれています。
・ボリビアにもティワナクなどの古代遺跡が存在していますが、驚くべきはその標高の高さ!ティワナクの遺跡は、ティティカカ湖の南に広がっていますが、このティティカカ湖は標高3800mと、富士山より高い場所に位置しています。更に現在のボリビアの首都ラパスも、標高3~4千mに位置する、世界一「高い」首都となっています。私はこれを、現在のマチュピチュと呼びたい…
・南北に細長いチリについては、別の記事にも書きました(世界史に(あまり)出てこない国の歩み~チリの歴史~)。銅の産出という、意外な世界一を持っています。またチリ本土から西へ数千km離れた沖合に、モアイ像で有名なイースター島があります。
パラグアイとウルグアイは、名前が似ているものの、国境も接していない別々の国です。この「グアイ」は先住民の言葉で「川」を意味し、国名もパラグアイ川、ウルグアイ川にちなんでいます。
・パラグアイは南北アメリカで2つしか無い内陸国のひとつ。マテ茶の生産で知られています。
・ウルグアイはブラジルとアルゼンチンの争いの結果、間をとって独立国となった経緯があります。世界一貧しい大統領と呼ばれたホセ・ムヒカ氏の著書は、一躍この国を有名にしました。ただ、ウルグアイ自体は南アメリカでも比較的豊かな国です。
・アルゼンチンはブラジルに次いで、南アメリカ2位の広さを誇る国です。パンパと呼ばれる広大な平原、小麦や牛肉の一大産地となっています。首都ブエノスアイレスは古くからヨーロッパ移民の玄関口だった大都市で、情熱的なタンゴの踊りなど、様々な文化が生まれました。
ブラジルはポルトガルの植民地でしたが、こちらも19世紀に独立。その際ポルトガル王の息子がブラジル皇帝として即位し、各地のポルトガル系ブラジル人がこれに忠誠を誓ったため、ブラジルは分裂を免れ、現在のような大国となりました。面積、人口ともに世界第5位を誇り、鉄鉱石やコーヒー、近年はサトウキビによるバイオ燃料の生産もダイナミックに行われています。
グラデーションとコントラスト
南アメリカの地形や気候は、場所によってバラバラですが、そこに住む人々もまた多種多様です。まず、1万年前からこの地に住んでいる先住民の子孫がいます。もちろん、その社会は千差万別で、ケチュア、チブチャ、マプチェなど多くの部族、民族が存在しています。先住民とひとくくりにするのは失礼かも…
続いて大航海時代以降に移り住んだヨーロッパ系の子孫もいます。更にヨーロッパ人が連れてきたアフリカ系黒人奴隷の子孫や、近代になって移住してきたアジア系移民の子孫も少なくありません。その中には明治時代に移住した日本人の子孫(日系人)もいます。中にはペルーの大統領にまで上り詰めた日系人、アルベルト・フジモリ氏のように、現地社会に大きな影響を与える人物まで登場しています。
更に更に、長い歴史の中で、こうした人々の血が混ざりあった、メスティーソ、ムラートと呼ばれる人々も数多く住んでいますが、世代を重ねる中で、その混血具合もバラバラになっています。例えば10世代遡れば、祖先は512人いることになりますが、そのうち先住民系が〇〇〇人、ヨーロッパ系が×××人・・・と考えていけば、みんなバラバラでもおかしくはありません。その為、肌や瞳の色も千差万別、十人十色というわけ。
経済に関しても、悪い意味で「違い」がはっきりしています。地元の大企業や工場、鉱山、農園を経営する大金持ちもいれば、いまだスラム街のバラック小屋に住んでいる貧困者も多いという、世界的に見てもかなりの格差社会となっています(もちろん、貧しい人の方が圧倒的に多い)。貧困ゆえに盗みや誘拐、麻薬売買などの犯罪や、反政府を訴えるゲリラが社会問題化しており、なんとなく「治安が悪い」という烙印を押されてしまっているのも事実です。
一方、貧困から脱すべく、自らを磨く人々も少なくありません。南アメリカで最も盛んなスポーツ、サッカーで有名選手になる事で、その夢を叶えた人も数多くいることでしょう。