人口の話その2
またまた突然ですが、皆さん、東京の人口はどれくらいだと思いますか?
①約30万人
②約900万人
③約1300万人
④約3700万人
↑たぶん10年以上前に東京タワーから撮った写真
答えはこちら
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答え:どれも場合によっては正解!
え?なんじゃそりゃ? と思われるかもしれません。しかし、実際本やネットで東京の人口について調べても、ずいぶん数字にバラつきがあります。
これはどういうことなのでしょう?
どこまでが「東京」?
日本に住む方はご存知でしょうが、日本には都道府県、市区町村というものがあります。これは以前の記事でも触れた「行政区」というものです。そして、例えば「名古屋の人口は?」「軽井沢の人口は?」などと聞かれた場合、それぞれ「愛知県名古屋市」「長野県軽井沢町」の人口を答えるのが普通でしょう。
ところが東京の場合「東京市」というものはありません。過去にはありましたが、戦後廃止されました。だからその人口を聞かれたとき、ちょっと答えにつまってしまいます。
この場合、まずこの「行政区」にこだわるなら、都庁の所在地である「東京都新宿区」の人口を答えればいいかもしれません。これが①の「約30万人」です。
いや、さすがにこれは実態と合わなさすぎますね。自分で書いておいてナンですが、東京の人口は30万人だよ、という本は見たことがありません。ゴメンナサイ。
「東京の人口」の答えとして経験上最もポピュラー(?)なのは、②の900万人です。これは東京23区の人口を合計したもので、先ほど触れた旧「東京市」の範囲とおおむね重なります。
この中には、新宿の他、銀座、渋谷、池袋、上野、秋葉原、浅草、原宿といった繁華街や、世田谷、練馬といった大住宅地、更には都庁、皇居、東京タワー、東京スカイツリー、東京駅、国会議事堂、六本木ヒルズといった、東京を代表する名所も含まれています(無いのは東京ディ〇ニーリゾートくらい?)。
数字的にも900万人というのは、横浜市(360万人)や大阪市(250万人)を倍以上引き離しており、イメージに合った数と言えます。
ただし、この900万人という数字、厳密にいえば「行政区」の人口とは言えません。あくまで23ある区を足したもので、これらを統括する場所、簡単に言えば「東京市役所」や「23区総合役所」みたいな場所もなく、「市長」や「23区長」といった人もいないため、少し中途半端な感じかもしれません。
では、「行政区」にこだわりつつ、皆さんのイメージする「東京」をカバーするにはどうすればいいかというと、これはもう範囲をワンランク上の「東京都」にまで広げるしかありません。この「東京都」の人口が③の1300万人です。これならちゃんと一つの「行政区」、つまり「都庁」や「都知事」の治める範囲の人口となります。この中には、都内の他の市町村、つまり八王子市や三鷹市、伊豆諸島などの人口も含まれていますが、「東京(都)」の人口なのでウソはありません。この1300万人はよく、東京の「広域人口」などと呼ばれたりします。
昼の人口、夜の人口
ところで先ほど、さりげなく「新宿区の人口は30万人」と書きましたが、超高層ビルが林立する新宿のイメージとしては、意外と少ないな、と思った人も多いのではないでしょうか? 約30万人と言えば、地方の県庁所在地くらいの人口(長野市とか和歌山市とか)で、同じ東京都の八王子市(約50万人)や町田市(約40万人)をも下回っています。更に東京駅や皇居のある千代田区に至っては、その人口わずか「6万人」です。
これはいったいなぜなのでしょう?
そもそも新宿区30万とか、千代田区6万という数字は、その区に「住んでいる」人の数です。つまり、そもそも「面積が狭い」のに「そこにオフィスビルが建ちまくって」おり、「地価も家賃もバカ高い」場所に「家を構えている」人の数ということ。これには新宿区や千代田区で「働いたり、学んだり、遊んだり、買い物したり」する人の数は含まれません。
実際、その街に「住んでいる」人の数を「夜間人口」、その街で「経済活動をしている」人の数を「昼間人口」と呼んだりします。都心にある区によっては、昼間人口と夜間人口の比が何十倍も違う所が珍しくありません。つまり「外から来る」人がメッチャ多いということ。実際、新宿駅を使う人は、JRだけでも約60万人。新宿区に住む人の倍近くいます。
逆に郊外の住宅地(世田谷区や三鷹市)の場合、夜間人口の方が多くなっています。
郊外を含めると・・・
更に東京ほどの規模となると、県外からやって来る人も相当数にのぼります。筆者の近くにも、横浜に住みながら東京で仕事をしている人間がいますが、神奈川、埼玉、千葉はもちろん、北関東や静岡などから通勤、通学してくる人もいます。このような人たちもカウントしないと、実質的な「東京の人口」を測ることはできない、とも考えらえます。
大抵の場合このような周辺の都市と都心との間には市街地が連綿と続いています。市町村の境界や県境によってぶつ切りにされ、それぞれ別の「行政区」と扱われてはいますが、実際には全体で一つの都市圏を築いているのです。これを専門用語としてはDID(人口集中地区:Densely Inhabited Districts)などと言ったりします。イメージ的には東京都市圏、首都圏といったところでしょうか。逆に同じ「東京都」であっても、伊豆諸島、小笠原諸島の人口はこのDIDに含まれません。こうした島々から都心に通勤、通学してくる人はかなり限られているからです。
この首都圏に住む人の数を計算した結果が、④の3700万という数字。日本の人口が1億2千万人ですから、約1/4~1/3が東京とその近郊に住んでいる計算になります。やっぱり東京は人が多い!
海外の都市と比べると・・・
このようなことは、海外の都市にも当てはまります。
例えばフランスの首都パリ。パリの人口も、資料によって「約200万人」だったり、「約1000万人」だったりします。これは、前者が「パリ市」という、パリの中でもかなり狭い場所の人口を数えたもので、後者はヴェルサイユなど郊外を含めた「パリ都市圏」の人口を数えたもの、というワケです。
別の例として、中国内陸にある重慶という都市の人口は、北京や上海よりはるかに多い「約3000万人」と書かれていることがあります。しかしこれは「重慶市」という北海道より広い「行政区」の人口をすべて足した値で、実際の「重慶都市圏」を大きく超えてしまっています。重慶都市圏の人口は「約1000万人」ということです。
このように、実際の都市の範囲と、行政区として線引きされた範囲(上の例でいえば、メッチャ狭いパリ市とメッチャ広い重慶市)に大きなズレがあることはよくあります。先ほど紹介したDIDの人口は、異なる都市を同じ条件で数えるので、海外の都市同士を比較するのに適しています。
なお「世界で最も大きな都市はどこか?」というランキングを見ると、海外のサイトなども含め、ほとんどのケースで1位は東京となっています。これも、条件を同じくしたDIDの範囲で東京、ニューヨーク、上海、デリーなどの人口を比較した結果です。「東京23区900万人」と「重慶市3000万人」ではそもそも土俵が異なるので、比較してもあまり意味は無いということです。
それにしても、並み居る大都市を押しのけて、東京が世界最大の都市というのは・・・喜んでいいのやら、危機感を覚えるべきなのか。
結論として、都市の人口ひとつとっても、その「数字」の裏には様々な事情が見え隠れしています。だから最初に挙げた4つの選択肢も、条件や背景によって「正しい」ことになってしまいます(あ、でも①はさすがに不正解か…)。これは、お金とか点数とか、他の数字にも言えることです。皆さんも数字を見るときは、その背景までしっかり確認しましょう。